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大西琢朗『論理学』を中心に論理学を学んでみた

f:id:shadekyun:20220228074715p:plain こんにちは,今回は論理学を固めて勉強したので,ブックレビューのようなものを書いていきたいと思います。

はじめに

論理学については,4単位分の授業を受けていたのである程度知識がありましたが,今回改めて論理学を勉強したのは,前々から気になっていたこちらの本,大西琢朗『論理学』を読みたかったからです。

大西先生のツイッター(https://twitter.com/takuro_onishi)も拝見していて,変わった内容の教科書だと聞いていたので,楽しみにしていました。

結論から言うとこの本は面白いのですが,前情報の通りなかなか尖った構成をしているので,現代論理学について全く知識がないという方は,まず「普通の」教科書・入門書を読むことをおすすめします。

論理学の「普通の」教科書としては,私が受講した講義の教科書でもあった安井邦夫『現代論理学』や,

野矢茂樹 『論理学』などがあります。

自習される方であれば,野矢の方が平易で分かりやすいかなと思います。

大西琢朗『論理学』について

さて,本題ですが,この本の特徴は3つあると思います。

一つ目は,証明論だけでなく,意味論・モデル論のみで話が進められることです。

大抵の教科書では,意味論(式に1, 0 などの真理値を与えて議論する手法)と証明論(自然演繹やヒルベルト式計算など,推論から「意味」を切り離して形式的に証明をする手法)の両方を紹介して,それらが実は同等の体系ですよ,というような議論をすると思いますが,この本では証明論は一切扱われていません。

これには賛否両論あると思いますが,その名の通り論理の哲学的な「意味」だけにフォーカスするのであれば,意味論だけでも良いのかもしれません。ただやはり非標準的なやり方だとは思うので,上で標準的だと思われる教科書を紹介しておきました。

二つ目は,古典命題論理と一階述語論理(古典述語論理)の「間」に様相論理が紹介されていることです。

これについては,様相論理は非古典論理の一つとして,普通の教科書では扱われないことが多いと思いますが,古典命題論理よりも表現力が高く,一階述語論理よりも決定可能性が高い様相論理をこの場所で紹介することで,ほぼ初めて学ぶ私にとっても様相論理の意義が自然に理解できました。

三つ目は,約半分のページがいわゆる非古典論理に費やされていることです。

これは単に「論理学」と銘打つ入門書としては異例のことだと思います。大抵は古典論理しか扱わないか,あっても直観主義論理について軽く触れられている程度です。しかし,これこそがこの本の魅力だと思います。古典論理(様相論理も含めてですが)の抱えるパラドックスを解消する試みとして直観主義論理,多値論理,関連性論理が紹介されます。

以上の点を見ていくと,この本の特徴は「論理学の哲学的意味にフォーカスしている」ということに集約されると思います。論理学を軽く勉強したけれど,いまいち何がしたいのか分からなかったというような方には特におすすめできる内容となっています。

追記

大西を読んで各論理に対してもう少し詳しい説明が欲しくなったのと,関連性論理の章でやや理解が追いつかなくなってしまったので,洋書ではありますが,同書の文献案内でも紹介されていた Priest(2008) を読んでみました。

この本は,内容的に大西と親和性が高く,併せて読むのには適していると思います。600頁超の大著ですが,私は前半の命題論理だけをひとまず読みました。

大西では推論の妥当性の判定に分析的反証法を用いていますが,Priest ではそれに加えて各論理に対するタブロー(推論の妥当性を機械的に判定する方法)も詳しく説明されていて「使え」ます。さらに,各記述の微妙な違いも補完的です。

また個人的には,Priest は多値論理の説明が優れていると感じました。多値論理を持ち出さなければならない哲学的動機と数学的定義が非常に分かりやすいです。 一貫して妥当な推論とは指定値 (designated value) が保存される推論だ1,という点が強調されていることも,多値論理への接続がスムーズな一因かなと思います。

Priest は好著でしたが,やはり関連性論理の哲学的意味については理解不足だと感じたので,同じく大西の文献案内に載っていた Dunn & Restall(2002) などでもう少し勉強してみたいと思います(Restall のウェブサイト(https://consequently.org/papers/rle.pdf)で公開されています)。

文献一覧

  • Dunn, J. M. & Restall, G. (2002). 'Relevance Logic.'
  • Priest, G. (2008). An Introduction to Non-classical Logic: From If to Is, 2nd Edition: Cambridge University Press.
  • 大西琢朗 (2021). 『論理学』, 昭和堂.
  • 野矢茂樹 (1994).『論理学』, 東京大学出版会.
  • 安井邦夫 (2021, 初版は1991). 『現代論理学〔新装版〕』, 世界思想社.

  1. たとえば,古典命題論理においては指定値は1であり,妥当な推論とは仮定のすべての式の真理値が1であるとき,すべてのモデルにおいて結論の式の真理値が1になるような推論です。真(t),偽(f),真でも偽でもある(b),真でも偽でもない(n)の4値を持つ論理においては,妥当な推論とは仮定のすべての式の真理値がtまたはbであるとき,すべてのモデルにおいて結論の式の真理値がtまたはbになるような推論だ,というふうに同じ枠組みで理解できます。