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【誤訳?】オバマ元大統領が鳩山元総理を「硬直化し、迷走した日本政治の象徴だ」と痛烈批判?について

こんなツイートが目に止まりました。

アメリカのオバマ元大統領が発表した回顧録において、鳩山元総理について触れられた箇所の解釈を巡って議論が起こっているようです。これについて、私の解釈と意見について書いてみたいと思います。

誤訳を指摘されているNHK、TBSの報道はそれぞれ以下の通りです。

www3.nhk.or.jp

news.tbs.co.jp

問題となっている回顧録の箇所は、nippon.comの記事に引用がありました。

A pleasant if awkward fellow, Hatoyama was Japan's fourth prime minister in less than three years and the second since I'd taken office--a symptom of the sclerotic, aimless politics that had plagued Japan for much of the decade.
出典:Obama Recalls Ex-Japan PM Hatoyama as "Pleasant If Awkward" | Nippon.com

拙いですが私の訳を示します。

(抄訳)難しいが気持ちの良い男、鳩山は、3年未満で4人目の、そして私が大統領に就任してから2人目の日本の総理大臣だった、そしてそれは、約10年もの間日本を苦しめた、硬直し、目的を失った政治の症候であった。

原文ではここに「彼は7ヶ月後にはいなくなった」と続くようです。

これについて、NHKは、「当時の鳩山総理大臣について、『硬直化し、迷走した日本政治の象徴だ』と記すなど、当時の日本政治に厳しい評価を下し」た、またTBSは、「当時の鳩山総理大臣について、『3年未満で4人目の総理であり、硬直化し、目的を失った政治の症状』と酷評し(中略)「感じはいいが、やりにくい同僚だった」と振り返」ったとそれぞれ報じています。

誤訳の検証

"A pleasant if awkward fellow"の解釈

まず、"A pleasant if awkward fellow"の部分から見てみましょう。

この部分はどの単語もうまく訳しづらく、難しいところですが、鳩山氏が、「awkwardではあるがpleasantだった」という構造は間違いないところです。つまり、この表現の力点はpleasantというポジティブな方にあり、この点で「感じはいいが、やりにくい同僚だった」としたTBSの訳は力点が逆で、ここは問題があると思います。

"a symptom of the sclerotic, aimless politics"とその周辺の解釈

ではより重要な後ろの部分はどうでしょうか。

"a symptom of the sclerotic, aimless politics"のa symptomについて、NHKは「象徴」と訳していますが、TBSのように「症状」と直訳した場合に日本語として違和感が残る(「兆候」でも微妙、「現れ」のような訳がいい?)こともあり、許容範囲の訳ではないかと思います。というわけで、この部分について、拙訳の通り「硬直し、目的を失った政治の症候」と解して大方問題ないものと思います。

さて、この部分について問題となっているのは、①「オバマ氏は、鳩山氏が『硬直し、目的を失った政治の症候』だったと言っているのか」、②「オバマ氏は鳩山氏を批判しているのか、そうでなければ、何を批判しているのか」の2点だと思います。

①については、意味的に考えれば、鳩山氏が3年未満で4人目の総理大臣となった(総理大臣が短期間で度々変わった)ことがa symptomである、と解することができます。つまり、上記の訳では濁したところですが、鳩山氏というより鳩山総理の誕生が、「硬直し、目的を失った政治の症候」でした。

なお、Hatoyamaとa symptomに同格関係を見出すこともできそうですが、鳩山氏自体が「症状」であるというのは、語のつながりとして難しいのではないかと思います。

②については、今述べた通り、オバマ氏は「鳩山氏が硬直し、目的を失った政治家だった」と言っているわけではありません。3年に満たない期間で4人目の総理大臣が生まれるという異常な状態(症候)を生じさせた原因が、「硬直し、目的を失った政治」だったのです。つまり、②の答えは、「当時の日本政治の状況」です。

私の意見

NHKの報道は、一応、オバマ氏が「当時の日本政治に厳しい評価を下し」たという報じ方なので、悪訳ですが誤訳と言い切れるかは微妙だと思います。

一方TBSははっきりと「鳩山元首相を痛烈批判」としてしまっており、"A pleasant if awkward fellow"の訳の問題も考えれば、致命的な誤訳または悪意ある解釈と言えるでしょう。